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屋久島紀行(10) -ヤクサルと出会う-

-ヤクサルと出会う-

林道のど真ん中でノンビリしているサル。
もうちょっと警戒したらどうだ?
と言ってやりたくなるほどの無防備さ。それがいいんだけれども。


 屋久島は淡路島よりひとまわり小さい周囲約130km、面積約500平方km、
そしてその島の形そのものが杉の切り株そのもののような円形をしている。
1日もあれば島を一周できてしまう規模の島だ。

 しかし、その小さな島にも関わらず、いや、その小ささだからなのか、
自然はとても複雑で山は深いし海も多様性に満ちている。
そして島内の気候も場所によって大幅に異なり、南側はいかにも南国的な雰囲気にあふれているが、
北部に行くと冬はほとんど曇りか雨という日本海的などんよりとした気候になっている。

 このとき、ぼくらが向かった先はその“日本海的な気候”である北部、そして西部にかけての一帯だった。
したがって冬も間近の11月の北部はなるほど、本当に陰鬱な空模様だった。

 途中でウミガメの産卵で有名なナガタ浜を見て、それからいよいよ西部林道へと入っていった。

 西部林道は屋久島の一周道路のなかでも唯一バスが通っていない区間。
ここには大型車両も進入することができないため、観光バスも入れない。
観光客がこの区間を通るためには自動車を借りるか自転車を借りるかしなければならないのだ。

だがそれ故に屋久島のなかでも比較的豊かな自然が残されている場所にもなっている。
そしてここではヤクサルやヤクシカを数多く観察することができる。
逆に人家はまったくない場所でもある。

 そんな説明を受けながら車は軽快に走っていく。
そもそもどこまで行くのか、どこに連れていってくれるのか、
そんなこともわからないまま屋久島の一日めは始まっていたが、
なにやら考えているような2人の様子があったからぼくは

「まあ、なんとかなるだろう」

という気持ちで外の景色を見ながら会話をしていた。

 西部林道には人間を恐れないように育てられたサルがいる、
なんて話を聞いたあと、さっそく目の前にヤクサルが現れた。
林道の真ん中に、ニホンザルより長い体毛が特徴のヤクサルが堂々と座っている。

ぼくたちは車を降りてそのヤクサルたちを観察することにした。
よく見ると林道にいるサルの他にも道の脇の斜面に木登りをしているサルが何頭か確認できた。

道にいるサルも木登りをしているサルも驚くほど近くにいる。
にも関わらず本当に人間を恐れているような様子は見られない。

彼らは実にリラックスしていて、毛づくろいをしたり腕をかいたりしてノンビリとしていた。
その距離は動物園で見るサルよりも近く、そんな近くで見ていると彼らの仕草が
ぼくたち人間のそれとほとんど同じでることに気づいて思わず笑ってしまった。

ほほえましい親子サルの光景。
が、この後この子ザルは母親のもとを逃げ出してしまう。
あんまりしつこくやられたら、そりゃ反抗するよね。
それとも反抗期かい?

一所懸命に毛づくろいをしていると、それをされている側のサルが毛づくろいされるを拒んだり、
赤ん坊のサルがお母さんのもとから逃げ出そうとしていたり。

 ただ、ボスザルと思われるサルに近づきすぎてしまった時の威嚇はいかにもサルらしいものだった。

泣いたり笑ったりという感情や仕草は人間にしかないと言われているが、
“怒る”という感情に関しては人間もその他の動物も共有している。

 おそらく“怒る”という感情はもっとも原始的でまた重要な感情なのだろう。
ふとそんなことを考えてしまう。
が、威嚇されたらすぐに離れなくてはならない。
あまりの無防備さに油断をしていたぼくはサルに威嚇されて恥ずかしながらも少しだけ怖かった。

やっぱり“怒る”という感情は大切だ。
あのサルにとってぼくは何をするかわからない生物。
彼が威嚇をしなければ彼らの家族はどうなってしまうかわからないのだから。

◆怒るのも時には大切なことだよね、うん。
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(つづく)

撮影機材:OLYMPUS E-3 + ZUIKO Digital ED 12-60mm f 2.8-4.0 SWD