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トカラ列島・中之島紀行記(6)

(6)

 最後に十島村の主産業である農業について簡単に説明しよう。
十島村は亜熱帯と温帯の混ざり合った場所に位置するため、様々な作物を生産することができる。
ただし、中之島の農園のように高地で栽培する場合には霜の害もあるため、
沖縄の作物がそのまま育つというわけでもない。

また、奄美や沖縄から作物の苗を持ち込むことは禁止されているので、自然と生産物は限られてくる。
そんな中で現在最も盛んなのが、黒毛牛の放牧と、
ビワ、観葉植物のサンセベリア(トラノオ)の露地栽培である。

なかでも黒毛牛は年間を通して放牧なので手間がかからないうえ、
すでに一千万農家が何人か出ているという。

また、最近人気の出だした島バナナも主要な生産物と言えるかと思う。
島バナナは高く売れる上、栽培も簡単ではあるが、一度台風がきたら全てダメになってしまうし、
かといって冬に結果してくれるわけではないので、なかなか思うようにいかないようだ。

ビワも高く売れても痛みやすいのが問題のようだ。
なんといってもここは離島である。
市場へ出すにも輸送費と時間がかかってしまうので、痛みやすいのは大きな問題だ。

様々な制約のため、結局は地産地消となり利益は増えていかない。
島の存続のためにはIターン誘致が重要課題となるだけに、
強い魅力のない農業をいつまでも続けていくわけにはいかないだろう。

とはいっても可能性は無尽蔵にあるのではないかと思う。
というのも、この十島村にはトカラ列島ならではのものが山のようにあるからだ。

トカラ馬、トカラマイマイ、トカラヤギ、アカヒゲ(鳥)、トカラ亜種のツワブキ、ガクアジサイ、タンカンなどなど。

今回の見学では作物に関して詳しく知ることはできなかったが、
未だに発見されていないトカラ亜種の作物はまだまだ眠っているはずだ。
それほどにこの列島の山は深い。

また中之島に関しては、亜熱帯と温帯、それに高原、さらに年間を通じて絶えない豊富な水がある。
島固有のものを対外的に売り込んでいくことが最良であり、間違いのない方法だとは思うが、
こうした好条件を利用すれば新しい作物を導入することもできるだろう。

現在Tさんたちが挑戦しようとしていることはリュウキュウチクと芋焼酎の生産だ。
たけのこ山はすでに諏訪瀬島では成功を収めている。
それに対し、中之島ではたけのこ山の外側のたけのこを摘むていどにしか行われていない。

竹林は人が入れば入るほどたけのこを生むわけで、何もせず放っておいたらみるみる荒廃していくという。
だが1つの島だけでは短期間しか出荷することはできない。
島ごとにたけのこの時期がずれているのだから、
村全体でリュウキュウチクを生産すれば長期間出荷でき、産業になるというのだ。
しかし、それも「島根性」によって島間の協力がなかなか成立しないために話は進んでいかない。

また、芋焼酎に関しては美味しい芋と美味しい水があれば絶対に美味しい芋焼酎ができるはず、
ということだった。

確かにトカラ列島では芋焼酎の生産は行われていない割によく飲まれている。
たとえ他の地域に出荷できるほど作れなくても地産地消に繋がれば無駄な出費が減ると言っていた。
確かにその通りである。

十島村は「沈みゆく島」とも言われる。
このまま村がなくなっても、ほとんどの人には関係のないことかもしれない。

しかし、農業に限らずこの村には様々な可能性が眠っているし、第一、人が暮らしているのである。
誰も知らない場所でも、そこにはそこの暮らしがあるのだ。

「なんとかこの島を‘浮上’させなければ。」
何度もNPOトカラインターフェイスの方が言っていた言葉が頭に残っている。

私は農業貢献や海外を目指す学生みんなに伝えたい。
開発しなければならないのは、なにも開発途上国だけではないのだ。
十島村のような隔離された地域もこの日本に未だ存在するのだ。

この紀行記を通じて一人でも多くの仲間が途上国だけではなく、
偏見を持たずにあらゆる地域に興味を持ってくれればと思う。
そして人間とは――自然の揺りかごの中にいるのだということを。

(おわり)