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懲りずにトカラに行きました(3) -ガジュマル-

-ガジュマル-
学名は、“Ficus microcarpa”。

幾筋もの気根を地面に突き刺しているガジュマル。
初めて目にする人はその容姿と大きさに驚くことだろう。

日本では南西諸島を訪れるとしばしば目にする木だ。
いや、“木”というよりは“樹”。

たいていのガジュマルは幾本もの気根を垂らして奇怪な姿をしている。
そしてその気根はやがて地面に達すると土のなかに潜り込み、立派な幹となる。
そのため、ガジュマルを見るとどれが本体なのかさっぱりわからないことが多い。

 ご多分にも漏れず、トカラにもガジュマルが多い。
特に中之島の「西」と呼ばれる集落にはその奇怪な姿がよく目立つ。

 なかには“日本最大”といわれているものもあって、それはそれは大きい。
が、残念ながら屋久島で見たそれよりは小さいように思える。
もちろん、屋久島でみたガジュマルは“知る人ぞ知る”ガジュマルなので、
科学者オスミ付きの“日本最大”のガジュマルはトカラにあるガジュマルだろう。

 西集落の入り口はガジュマルで囲われているようにひっそりとしている。
そして、民家はガジュマルに守られている。

気根が発達して壁のようになっているガジュマルは防風林としてはうってつけなのだろう。
だがしかし、防風林だけの役割しか持っていないのかというと、それは疑問に感じてしまう。

ガジュマルには明らかに神聖なものを感じるからだ。

 事実、西集落のとある神社はガジュマル林のなかに作られていて、
祠の後ろには小さくとも迫力のあるガジュマルが鎮座している。

ガジュマルに護られてたたずむ小さな祠。
積まれた石垣にもガジュマルの根はめり込んでいる。


この神社の由来については調べるのを忘れていたので、何を祭っているのかは知らないが、
“神”とガジュマルがなんらかの関係を持っているのは間違いないのだと思う。
なにしろ、ガジュマルの外見は奇妙すぎる。

 ふつう、琉球文化の聖地はビロウ林のなかにあることが多い。
琉球の影響を受けているトカラもビロウ林のなかにある聖地は多い。
ビロウも神聖なイメージを与える植物の1つだ。
ビロウもガジュマルも他の植物とは異なる、特徴的な外観を持っているからかもしれない。
もしかしたら、実際に、何か薬効やスピリチュアルな力を持っているのかもしれない。

何本もの気根が垂れている。
これもやがて地面に突き刺さり、やがて太くたくましい幹へと変貌するのだろう。

 ぼくは夕暮れ時、夕日に染まるガジュマルを撮影しようとして集落を歩いていた。
西集落にはたくさんの巨樹ガジュマルが生えている。
その集落の奥まったところに“日本最大”のガジュマルがあった。

周囲にはほとんど人の気配はない。
高齢者の多い西集落には空き家が多いのだ。

集落から見下ろす水平線にはもう太陽が沈みかけていて、水面に美しい色彩を放っていた。
ガジュマルも夕日に照らされる。
しかし、思いのほか夕焼け色にはなってくれなかった。

巨大なガジュマルをファインダーに納めるのはとても難しい。
なにせ、全体像は超広角レンズを使っても入りきらない。
その条件で偉大さを表現するのは大変な作業だった。

何枚か撮った後、ぼくは三脚を離れてそのガジュマルの根元に歩み寄った。
自分の姿をメジャーにして、大きさを表現しようと思ったのだ。
上を見上げる姿勢をとって、シャッターが切れる「カシャン」という音を待つ。
10秒後、シャッターは切れた。

そこですぐに撮影画像を確認してみると、なんとぼくの姿がどこにも写っていないではないか。
ぼくは不気味な気分になっておそるおそるその場を去っていった。
太陽はより一層美しいオレンジ色を世界に放っていた。
ガジュマルには不思議なパワーがあるのかもしれない…。

一応“日本最大の”といわれているガジュマル。
圧倒的な気根の数。幅。
高さはそれほどではないが、その包容力は偉大だ。

 しかし、カラクリはなんてことはなかった。
翌日モニターで撮影画像をチェックしてみたら、ぼくの黒い頭が暗い影にほんの少しだけ見えていたのだ。
つまり、ガジュマルの周辺のブッシュがうるさすぎただけ。
それも、ガジュマルをレンズに納めようとして思いっきりレンズを上向きにしたのが原因だ。
それほどに、ガジュマルは巨大だった。

 他にもトカラにはやたらに大きな植物がたくさん生えている。
夏場のツワブキの葉は巨大だ。イヌマキの樹も巨大だ。クワズイモも…。
だけど、島にいる動物はたいてい小型になる。
トカラウマとか、野性牛とか、トカラヤギとか…。

 離島において植物は大きくなるけど、動物は小さくなる。
ちょっと面白いことかもしれない。
自然界は不思議だらけ。
そんな不思議を感じられるのも、トカラという隔絶された環境だからこそかもしれない。

(つづく)

撮影機材:OLYMPUS E-3 + ZUIKO Digital ED 12-60mm f 2.8-4.0 SWD
       + ZUIKO Ditital 9-18mm f 4.0-5.6