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南アルプス・サバイバル登山(9)

9月7日

雪渓の風が吹く寒いビバークが終わった。朝ご飯は貧しい。

そこで、他の部員からもたった寸志のスープをY隊員が取り出す。
中身は不明。

各々好きなものをもらって中を見ると…

やった、「フカヒレスープ」だ!

これで今日1日がんばれるかも、と思った。

が、当のY隊員のスープはスープではなかった。

「青汁」だった。

オチ付きの寸志だった…orz

彼は青汁と味噌を一緒にして食べた。すごくまずかったらしい。そりゃそうだ。

歩き始めるとやはり、N隊員の足の状態はかんばしくない。しかし、ここでじっとしているわけにもいかないし、彼が痛めた足は以前骨折をしたことがある部位でもあるということがあって、急いで沢を下っていくことにした。

いったい彼はいつ怪我をしたのだろうか?

実はぼくもY隊員も彼がまさに怪我をした瞬間を見ていない。

彼はずっと一人で自分の足の異常に気づきながらも我慢していたのかもしれない。

彼が言うには、上りは問題がなかったとのことで、沢に下りだした時から急激に状態が悪化したらしかった。

彼は落ちていた枝を杖代わりにしてゆっくりと沢を進み始めた。実に遅々としたスピードであった。

最初は滝ばかり現れていちいち下りていくのが面倒だったが、幸いにもロープ無しでは身動きができない、というような箇所はなかった。

だいたいは横から捲き下りることができる。が、もし捲けなかったら結構怖い沢だ。そんな表情をしている。

南アルプス・サバイバル登山(9)
慎重に滝を下りるN隊員

N隊員も難儀そうだった。見ているぼくらも怖かった。

いくつか、捲き下りるのも面倒な滝があった。おそらく、ここが小屋の人が心配していた箇所ではないだろうか、と思いながら慎重に下る。

何ヶ所かつづくと心配になってきたが、無事に二俣までたどり着き、ここが本当に荒川の源頭であることを確認。そこからは気持ちのよい沢が続いていた。

幸運なことに天気はいい。昨日の昼頃はどんよりとしていた空もすっかりと晴れ渡っている。

荒々しくも沢筋は広いこの南荒川には、やがてさんさんとした陽光が差し始めた。危険箇所が終わって隊の気分も盛り上がってきた。

南アルプス・サバイバル登山(9)
赤い岩が印象的だった
南アルプス・サバイバル登山(9)
明るくなった沢。左端にN隊員が杖をついて歩いている。

ぼくは分岐があると時々自分たちが来た方向にケルンを立てていった。人が入り込んだ気配はほとんどないけれど、今たどっている旧登山道をいつかぼくらのように歩く人の役に少しでも立てばいいと思った。

それと、あまりに人跡がない場所だったので、ぼくはこの荒々しくも明るい沢にもう少し温かみを与えたいと思ったからだ。

今日のN隊員の荷物はY隊員が前に抱えて進んでいた。ダブルザックというやつだ。

小学生の時によくやったであろう荷物持ちを思い出して欲しい。あんな感じでY隊員は彼の荷物を持って勇敢に沢を下りていた。

そんなキャラじゃないのに…。

ちょっと見直す。

やがて沢の流れもハッキリとしてきて、周囲は森に囲まれてきた。ゆっくり、ゆっくりと進んで行く。ここを進んで行けば今日のビバークポイントがみつかるだろう。南アルプス・サバイバル登山(9)

南アルプス・サバイバル登山(9)
黙って荷物を持つY隊員
南アルプス・サバイバル登山(9)
朽ちた堰堤が昔の物語を想像させてくる

やがて朽ち果てた堰堤が現れ始めた。地形図に乗っている堰堤だろうか。周囲の森にもはや溶け込んでいるかのような朽ち果てかただった。

目的地は近い。

と、ぼくは森の中にたくさんのキノコが生えているのを見つけた。ぼくらが自信を持って食べられるキノコは、ウスヒラタケくらいなのだが、この沢で発見したこのキノコ、明らかにアミタケだった。傘の裏が線ではなく、網状になっているのだ。

こんなキノコ、食用菌のアミタケしかない!

そう確信したぼくはさっそくキノコ辞典を取り出して同定作業を行った。

アミタケだ…。

今日の晩ご飯はキノコご飯に違いない。

南アルプス・サバイバル登山(9)
おお、これぞアミタケ!

昨日のマツタケなんかメじゃないほど、明らかにアミタケだ。

まあ、あのマツタケは結局違うんじゃないか? という意見で食べなかったのだが。

その後は次々とアミタケを採取しながら下って行った。

ぼくはもう、キノコに夢中だった。

食料は手に入った。しかし、あまりにもゆっくり過ぎた。予定の時間になっても全然近づいてこない。

そんな状況でも、やはりN隊員の足は心配で仕方なかった。できれば今日中に下山したいが、と思い始めた。

そして、ついに沢が終わって登山道の切れ端が見つかった。あとは悠々と歩くだけだ。

と思ったら、そんなに世の中甘くはなかった。登山道の切れ端は本当に切れ端に過ぎなかった。

あっという間に消え失せ、ぼくらはまた道なき道を歩くこととなった。

そして、空は暗くなり始めた。足元もまた暗くなっていた。

森の中を流れる沢はもうとっくに終わり、工事現場のような風景がぼくらを取り囲んでいたのだ。これほどに破壊されている自然も珍しい…。

南アルプス・サバイバル登山(9)

雨が降り始めそうだった。雷鳴が時折響く。周囲のガレ場からはときどき落石が起きていた。

はっきりいって危険極まりない場所だった。落石に気をつけながら広大な荒涼とした大地を歩いていく。

そして、ついに雨が降り始めてしまった。大雨だった。

ぼくらはある種の賭けをすることにした。

今日中に林道まで出て20kmの距離を夜通しでも歩いてN隊員を病院に連れていこう--。と。

(つづく)

撮影機材:OLYMPUS E-3 + Zuiko digital ED 12-60mm f 2.8-4.0 SWD
RICOH GR Digital

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