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屋久島紀行(1) -白谷雲水峡-

-白谷雲水峡-

 石が敷かれて辛うじて道だとわかる道に木の根が複雑に交差している。
原生林然とした林内は複雑で、そして奇怪ですらあった。

背の高い木々は森のなかを十分に薄暗くし、朽ちた木にも、
朽ちていない木にもところ構わず緑色の苔がべったりと付いている。
雨に濡れた苔はいつもより青々としているのだろう。

そして、木々もまた艶かしくツヤツヤと輝いている。
更に、時々驚くような巨大スギが現れるこの場所。
屋久島の森は、まさしく「森」であり、途方もなく森なのだった。

 ぼくは雨に打たれながら原生林の只中を歩いている。
何千年も生き続けているスギ達に会うために。
世界中の人々に憧憬の念を持たせているこの森の姿を少しでも見るために。

 雨は鬱蒼と茂る森のなかにも容赦なく入り込んできてぼくを打っている。
晴天が多い時期だときいて11月にやってきたのに。
それでもやはり山の中ではあまり関係はないのだろうか。
なにしろ、山中では年間に10,000ミリも雨が降るというのだから。

 ただでさえ暗そうなこの森に降りそそぐ雨はこの山をより一層陰鬱とさせていた。
引き返すこともできたし、もし引き返せば暖かい食べ物とお茶が待っているかもしれなかったが、
ぼくは何とか進んで行くことにした。

この程度でへこたれていたらとても屋久島を理解することなんてできやしないじゃないか、
と自分に鞭を打っていた。
だからぼくは今、歩いている。

ここは屋久島奥岳への入り口の一つ、白谷雲水峡である。

(つづく)

撮影機材:OLYMPUS E-3 + ZUIKO Digital ED 12-60mm f 2.8-4.0 SWD