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台湾の立法院占拠デモはなぜ起こっているのか?

台湾の立法院でいま、なぜデモが起きているの?

台湾の立法院占拠デモはなぜ起こっているのか?
今、台湾の立法院(日本の国会にあたる場所)が学生によって占拠されるというデモが起きています。これは一言で言うと「サービス貿易協定」という法案が強行採決された事に対する市民デモです。

日本では報道が少ないそうですが、ここ台湾では毎日それこそ24時間立法院でのデモに関するニュースが流れています。今回は、詳しく知りたいという方がいらっしゃったので、私なりにこのデモのことをまとめました。

※この文章を読む前に、まず最初に下記のことに注意してください。

  • 台湾は国際的には独立国家として認められておらず、日本と台湾の間にも国交はありません。しかし事実上は民間による交流が行われており、公式には独立国家と認められていないものの、現実にはほぼ独立国家として扱われています。
  • この記事では、台湾つまり中華民国を台湾と呼び、大陸つまり中華人民共和国を中国と呼びます。
  • 台湾は民主国家で、大統領制です。大統領は国民投票によって決まります。
  • 現在の台湾の与党は国民党で、最大野党は民進党です。
  • この記事は私が調べた情報と周囲の台湾人の情報を合わせたものですので、主観が入っています。したがって、間違った情報が含まれている可能性もありますのでご注意ください。一方で、メディア報道より一市民の立場が表現されていると思っていただければと思います。

さて、一番最初に大切なことをお伝えします。台湾の立法院占拠デモは、中国と台湾の間で調印された「サービス貿易協定」という法案に反対して行われているデモというよりは、民主的な手続がなされないうちに法案が成立したことに関するデモ活動です。

「サービス貿易協定」という法案は、簡単に説明するとサービス業に関する台湾ー中国間の貿易の自由化を認める法案です。ゆくゆくはFTA、TPPにもつながる布石となる重要な法案です。

この法案が施行されると、例えば中国人でも台湾の医師の資格を取ることが可能になります。

法案成立以前は、中国人が台湾の医師免許を取ることはできませんでした。そのため、台湾人の権利は守られてきました。

もちろん、守られる事には良い点も悪い点もあります。台湾人が守られれば、当然台湾の雇用は安定します。しかし一方で効率的に開発をしたりビジネスをすることの障壁にもなりえます。

サービス貿易協定ではこの壁を取り払うことで、台湾と中国の経済を発展させるという狙いがあります。

ただし明らかに台湾人にとって不利なこともあります。一番分かりやすいのは、台湾の住宅や土地を中国人が自由に購入できるようになるということです。

人口からして、中国人のほうが富裕層が多いので、住宅や土地が値上がりする事が考えられます。私の周囲ではこのことをもっとも気にしている人が多いようです。

 

立法院占拠デモのポイント

勘違いしそうなのですが、学生らをはじめとする市民がデモをしているのは、この法案自体に対する反対というよりは、法案通過のプロセスがあまりにも強引だったことに対してのようです。

もちろん、ほとんどの方がサービス貿易協定に反対しているのも事実のようですが…。実はこの法案は台湾の現大統領「馬英九」氏の公約です。したがって、遅かれ早かれこの法案が馬政権の間に成立することはみんな知っていたわけです。

台湾は大統領制度ですから、当時の国民の大多数は馬さんと共にこの法案を支持していたということになります。しかし、正しいプロセスを踏まずに強行採決したのは馬政権にとって大きな間違いでした。

なお、今の馬政権の支持率はわずか9パーセントです。ちなみに馬氏の前の大統領の名前は「扁」氏というのですが、二人の名前を合わせると「騙(日本語で嘘をつくの意味)」という言葉になります…。近年の台湾大統領の支持率については、そんなブラックジョークがあるほどということ、お察しください。

 

強行採決の経緯

それでは、ここまで大きなデモに発展させることになった強行採決の経緯を見てみましょう。

まず、サービス貿易協定自体は去年2013年の6月21日にすでに台湾と中国の間で調印されています。

その後6月25日に立法院で話し合ったところ、サービス貿易協定は慎重に審査すべきという声があがり、6月27日に有識者を開くことを取り決めました。

結果、この法案の最終的な成立のために、20回の有識者会議が行われることになります。そのうち4回は8月に行われており、残りの16回は国民党が8回、民進党が8回おこなうこととなっていました。

国民党が去年の10月に8回の有識者会議を終えている一方で、民進党は今年の3月10日にようやく8会の有識者会議を終えました。

ここまでは最初の調印以外はプロセスにしたがって進んでいます。まあ調印は馬氏の公約だったので一万歩くらい譲ってOKとしましょう。

一番の問題はこの先でした。合計20回の有識者会議のあと、3月12日と13日に立法院で最終審議をする予定となっていましたが、12日と13日の審議で議会が混乱してしまいます。そこで17、19、20日の3日間をかけて改めて集中審議をすることになりました。

そして、17日の会議。与野党はもみ合いの対立となります。更には議長である国民党議員に野党員が突進して押し倒す事態が発生しました。これを受けて議長は無理やり審議を終わらせて議会を解散させてしまいます。

巷では、3日間かけて審議するはずだった法案の審議がたった30秒で終わってしまったと揶揄されています。

当然、野党はもう一度審議することを要求し、18日の朝、議長に対して抗議をしました。最終的に民進党の3人の議員が70時間の断食抗議をすると宣告することになります。

この日の夜、立法院の前に市民団体がついに集結します。結果、夜通しデモをするまでに事態が発展。午後9時に学生が立法院を占拠することとなりました。

学生の立法院占拠から9日間が経った現在も占拠は続いています。このように市民によって立法院が占拠されることは台湾の憲政史上初めてのことで、極めて異常なことです。

 

このデモの意義

さて、このデモのポイントはどこにあると思いますか? 私は、サービス貿易協定自体への問題もあると思いますが、もっとも重要なのは、与党によって無理やり法案が成立させられてしまったことに対し、国民の怒りが行動を起こしたという点だと考えます。

与党が国民の意見を聞かずに好き勝手にやったら、当然国民が反発します。国民党をはじめとする議員は国民を甘く見ていたのでしょう。

民主主義とは、官民が協力しあってすすめていくものであるべきです。しかしその大前提が破られそうになったときこそ、国民は行動を起こさねばなりません。

台湾で今起きているデモは、私たちに民主主義とはどうあるべきかを体を張って教えてくれているのではないでしょうか。

こうしたデモ活動は世界中のどこでも起きています。しかし、日本にとって極めて身近な台湾で起きた事は、その他の国の市民運動より強く日本人の心を打ってはいませんか?

台湾の市民運動に対して、私たち日本人は自分たちが反対する法案の成立にどのていど抵抗できていたのでしょうか…。

立法院の選挙は半ば暴力的であり、決して全てが正しいと言い切ることはできません。しかし、一国の情勢を変えるには、今の台湾にはこのような手段が最適だと市民らは考えたのでしょう。

私は台湾人ではありませんが、台湾に暮らす日本人としてこの運動を支持します。

なお、このデモ活動は支持者によって送られてきたヒマワリにがシンボルとなっているため「太陽花学運」(中国語でひまわりは太陽花)と呼ばれています。

 

このデモ活動に関するさっぱりした説明は、Wikipediaを見ると分かりやすいです。
台湾学生による立法院占拠