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懲りずにトカラに行きました(7) -トカラウマ-

-トカラウマ-
TRACE ~世界のアチコチに行くために 日本のアチコチに行っている人のblog~-トカラウマ1
「私はトカラウマ。天然記念物である。」
 日本在来馬で天然記念物。トカラ列島固有の馬だ。
詳しい人いわく純粋なトカラ列島固有の馬というわけではないそうだが、今ではそう認定されている。
この馬は中之島の高尾高原にある放牧場で飼育されている。
こちらの方(「トカラ列島トカラうま!」) の努力のおかげもあってまあ、
なんとか今年も2頭の子馬が誕生したということ。
というのも、ふつう天然記念物というと保護と繁殖のためにいろいろと手厚くされるはずなのだが、
この僻地・トカラでは行政の目や研究者の注目もなかなか集まらないようで
かなりいい加減に扱われているのだ。
 もともとは農耕用で飼育されていた馬たち。
しかし今では毎日仕事もなくただ日々を過ごしている。
日本在来馬という貴重な血はこのまま何にも活かされることなく在来馬という歴史の余生を過ごすのだろうか。
 在来馬はぼくたち日本人のように(?)胴長短足の愛らしい体型をしている。
つまり、とても親しみやすいのが特徴だ。
サラブレッドのように大きな馬では大人が見ても迫力があって恐怖すら感じるが、
馬体の小さなトカラウマに関してはそんなことはない。
そんな特徴を活かして、ぜひ今後は子どもたちや観光客に触れ合いを与えてくれる馬になってほしいものだ。
TRACE ~世界のアチコチに行くために 日本のアチコチに行っている人のblog~-トカラウマ親子
トカラウマの親子。お母さんのお乳を飲む子馬ちゃん。
 中之島にやってきた2日め。
雨の音がテントの中に響いていた。強く、そしてときどき弱く、雨が降っていた。
ぼくは昨夜久しぶりに少々飲みすぎていたこともあって、雨を理由に寝坊をすることに決め込んだ。
いい加減に起き上がろうかと思う頃にはテントの中さえすっかり明るくなっていたが、
雨は依然として降り続けていた。
このまま降っているようだったら今日はどこにも行きたくないな。
そう思ったものの、はるばる2日間もかけてこの島にやってきたのだから、
なるべく一日も無駄にしたくはなかった。
朝食と昼食の米を炊いてしばらくゆっくりとしていたら、どうやら雨は弱くなったようだった。
 まずはスクーターを手に入れたので今まで歩きでは全く行く気にならなかった高尾高原まで行くことにした。
久しぶりに登る高尾への道。
右に曲がったり、さっき曲がったばかりだと思ったらすぐまた左に曲がったり。
とにかく傾斜の強い坂道をゆっくりと登っていく。
途中で牛舎のある民家を通りすぎたら高原に行くまで家は1つもなかった。
でこぼこした道をしっかりとハンドルを持ちながら進み、10分ほどでようやく坂が終わった。
今まで暗かった前方の光景が光に溢れている。
山の上にある高原、高尾高原への入り口だ。
ぼくはこの道を登るたび、入り口に差し掛かるこの瞬間が一番好きだと思う。
天気は曇り空ではあったものの、御岳はすっきりと見えているし、
なにより、解放感抜群の高尾にまっすぐ続いている道を走っていくのは気持ちが良かった。
 今はさっぱり使われていない開発センターを横目にまっすぐ進んで行く。
やがてトカラ列島在来馬のトカラウマ牧場が右側に大きく現れた。
広い高原に切り開かれた牧場は見ているだけでも気持ちがいい。
その反対側にもトカラウマを囲った柵があった。
TRACE ~世界のアチコチに行くために 日本のアチコチに行っている人のblog~-トカラホネ
トカラウマの頭骨標本。
TRACE ~世界のアチコチに行くために 日本のアチコチに行っている人のblog~-サラブレッド
こちらはサラブレッドの頭骨標本。
んー。サラブレッドって大きいなあ。
 スクーターを停め、ぼくはカメラを取り出した。
トカラウマの紹介をするためにできるだけ良い写真を撮っておきたかったのだ。
柵の中にいる馬はこちらに興味津々でぐっと近づいてきた。
シャッターチャンスだ。
ズームレンズを一番望遠側にしてファインダーいっぱいにトカラウマの顔をフレーミングした。
首から上だけを切り取ればずいぶん凛々しく見える。
トカラウマは日本在来馬のため、ふつう想像するサラブレッドのように容姿端麗というわけではない。
体は小さく、そして脚は短い。表現としては、ずんぐりむっくりといった体型なのだ。
それでも、顔はやっぱり馬。凛々しくはある。
TRACE ~世界のアチコチに行くために 日本のアチコチに行っている人のblog~-トカラウマ全体
「ぽっちゃり」なんだよね。トカラウマって。
TRACE ~世界のアチコチに行くために 日本のアチコチに行っている人のblog~-トカラウマ!
こちらは後日撮影したもの。写真の女性は平均的な身長。
撫でているのは大人のオス馬「ブラック」さん。
うわー、比べてみるとトカラウマはやっぱり小さいなあ。
 顔のアップも良かったが、ぼくとしてはなんとか体全体を写真に収めておきたかった。
トカラウマの特徴はその体型にあるからだ。
そのためには左側の広い放牧地にいる馬の方が都合が良い。
しかし、そこにいる馬はみんな遠くで草を食んでいた。
もう少し、こちらに来ないかな。柵に近づいていく。
すると、餌をくれるものと勘違いしたのだろうか。馬はみんな一斉にぼくの方へやってきた。
TRACE ~世界のアチコチに行くために 日本のアチコチに行っている人のblog~-トカラウマ複数
「なに? ごはん? ごはんじゃないの? ごはんじゃないの?」
今までもトカラウマの撮影はしたことがあったが、こんなに近くにたくさん集まるのを見るのは初めてだ。
てっきり見慣れない人には近づかないのだとばかり思っていたのでなかなか感動的だった。
 もしも初めてこの島にやってきた人がこの放牧場を見ても何の感動もないだろう。
なぜなら、そこには手の届かない遠くにいる馬の影があるだけだからだ。
説明がなければ貴重な天然記念物だとは誰が想像できるだろうか。
ところが、この時のように体に触れられるくらいに馬が近寄ってきてくれると話は違う。
この瞬間、ぼくは今までほとんど興味のなかった「馬」という生き物に興味をもったからだ。
 人は自分の目には見えないもの、感じられないものにはなかなか興味をもてない。
けれど、こうして触れ合うことで人々は馬のこと、生き物のこと、自然のこと、
さまざまなことに思いを馳せる機会を得ることができる。
今は何もしていないトカラウマがするべきこと、できることは、
人々にそうした思いを抱かせることなのではなかろうか。
たぶん、馬に関心のある島の人はみんなそう思っているのだと思う。
というわけで、中之島で唯一調教に関する知識を持っている方を陰ながら応援するのである。
トカラウマに関して詳しくは↓
参考:「トカラ列島トカラうま!」
URL:http://blog.goo.ne.jp/tokarauma
(つづく)
撮影機材:OLYMPUS E-3 + ZUIKO Digital ED 12-60mm f 2.8-4.0 SWD