南アルプス・サバイバル登山(6)
とはいえまったく生き物の息吹を感じさせない灰色の崩壊地をいつまでも歩いているのには飽きてしまう。しかもゴロゴロした道は歩きにくい。
地形図で必死に今の位置を確認し、ようやく見当がついた頃にはまた渓観が変わっていた。
沢筋が狭まり、ちょろちょろとした水が流れだし、やがてなんの変哲もない小川の森が現れた。
ただの小川と違うところはその横に苔むした、まるでムーミン一家でも暮らしていそうな朗らかな森があるところくらいだろう。
3人ともこの場所が気に入ったのでしばらく休憩とした。
この場所でキャンプとしてもよかったのだが、明日一気に塩見岳に突き上げて
さらに北荒川を下ることを考えるとできるだけ進んでおきたい気持ちの方が明らかに勝っていたので、この先にもこんな場所が存在することを信じてさらに先に進んでいった。
結果としてはその先はちょっと進むと沢筋がさらに狭まり、とてもビバークできそうな場所がなさそうなのであまり進むことはできなかった。
それでもこの日のビバークポイントはまるで河原のキャンプ場のような趣きがあり、とても心地よかった。
小川の横に広い平地があり、対岸には小さな支流が落ち込んでいた。
水路のように真面目に流れている沢で、採ってきた山菜とイワナを冷やしておき、とっておきのソーメンを取り出してお楽しみイベントを始めることに。
できれば流しソーメンがよかったのだが、貴重な「普通の食料」である。
反対多数(というか満場一致)でソーメンは普通に食べることにした。
ところでお湯を切って更に沢の水で冷やす作業には100円ショップで購入した「蒸し布」が大いに役に立った。
もともとごはんを炊いたあとのナベ洗いを簡略化するために持ってきたものだったのだが、考えてみると色々な使い方があるものだ。
N隊員が沢の水でソーメンを冷やしている間にぼくはせっせとその辺に生えている「オオバタネツケバナ」を摘んでいた。
これは、まあ、和製クレソンのようなもので生でも食べられる山菜である。
食べるのはこの時が初めてだったが、ピリっとした辛味はやはりソーメンの薬味にピッタリでみんな満足してくれた。350gのソーメンは意外と量が多かった。
さて、寝場所ができたら焚き火を組んでイワナをじっくり焼く時間だ。沢はやっぱり夜が楽しい。
一所懸命荷物を減らした分一所懸命に持ち上げた酒(軽量化のため、たいてい20度以上のアルコールが入っている)をちびりちびりと飲みながらイワナを焼き、ご飯を炊き、今日は例のタネツケバナを天ぷらにしながらイワナが焼き上がるのをひたすら待つのである。
薪も多い。星も多い。
目一杯炎を大きくし、大きくしすぎた2人に簡単に注意。だって熱すぎるから。
翌日はいよいよ3000m峰へのアタックだ。うまくツメ上げられるとよいのだが…。
今日も平和に流れつづける天の川を仰いでからシュラフの中に潜り込んだ。
標高は高い。今日も寒いだろうな、と考えながら。
撮影データ:OLYMPUS E-3 + Zuiko Digital ED 12-60mm f 2.8-4.0 SWD