屋久島の立ち入り制限をめぐる記事まとめ
2011年6月23日、屋久島町は入山制限の条例案を否決しました。小笠原諸島の世界自然遺産登録のニュースや、夏のシーズンにむけ、なんとなくざわつくエコツーリズム業界です。
屋久島の入山制限に関しては、かねてから議論があったようですが、ここにきて、ようやく1つの結論がでたようです。
そう、「自然と未来を守るより、自分たちの生活のほうが大切」という結論です。
以前も世界遺産についてのエントリを投稿していますが、しばらくは世界遺産とエコツーリズムについて考えることたくさん有りそうです。
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このたび、なぜ屋久島の立ち入り制限案はみとめられなかったのでしょうか? そして、今後、わたしたちは世界遺産についてどのように考えるべきなのでしょうか?
条例の中身
音頭をとったのは現屋久島町長の日高十七郎(となお)氏。立ち入りを制限すべき場所として執行部は、下記の3点を指定しました。
- 縄文杉ルート(大株歩道)の自然植生
- 永田浜のウミガメ
- 西部地域の生態系と歴史的資源
事前に町長の承認を受けた人だけ立ち入ることができ、手数料は1人400円と考えていたようです。
屋久島町のウェブサイトにある「町長から」(リンク切れ))を読むと、1人500円となっているのに対し、条例案では400円になっているのは、少しでも値段を下げることで同意を得たかった気持ちのあらわれでしょうか。
なお、(1)の縄文杉に関しては、3月1日~11月30日のあいだは、立ち入りできる人数を、1日420人に制限することを計画していました。420人のうち360人が「日帰り利用者」で、残り60人が「宿泊利用者」という内訳です。
一方で(2)と(3)に関しては立ち入り制限の期間や人数はハッキリしていなかった模様ですね。
この条例を審議したのは、町議会の特別委員会。委員は、議長をのぞく議員全員で構成されていましたので、特別委員会といっても、特別な有識者が混じっていたわけではなさそうです。
条例の背景
いうまでもなく、屋久島は大人気の世界遺産です。多くの人が「一度は行ってみたい!」と口をそろえる【定番】の観光地です。
それに加え、登山ブームや環境ブームもてつだって、年々登山者は増加しつづけています。おかげで ”ガイドをしていれば、冬は仕事をしなくても暮らせる” という状況にまでなり、ほぼ全ての離島の人口が減っている一方で”屋久島は移住したくても家がない” なんて事態にもなっています。
屋久島では、1993年の世界自然遺産登録から観光客が急増し、環境省によると、縄文杉には2010年には約9万人がおとずれ、1日に500人を超える日が40日もあったそうです。
屋久島をおとずれたことがある方はわかるかもしれませんが、これほどの人数が登山するにもかかわらず、登山道はものすごく狭いです。
また、トイレも数がすくなく、ピーク期にはとても処理が追いつかないのが現状です。登山者も初心者がおおいため、山のルールや生態を知らないのも問題かもしれません。
トイレに関しては、全員が同じ場所でするのではなく、べつべつの場所ですれば、汚染することも少ないという考えもあります。
もちろん、世界遺産になってから登山道はキレイに整備されました。それにより、世界遺産前よりも環境が回復しているという指摘もあります。
しかしながら、現在の屋久島の状況はあきらかに許容範囲をオーバーしています。
こうした環境から、町長が立ち入りを制限する条例をつくろうという考えは、外からみる人にとっては、とても自然なものに見えます。
否決理由
全会一致であっさりと否決された条例案ですが、なぜ否決されてしまったのでしょうか?
簡単です。観光業への影響がおおきすぎるからです。
縄文杉周辺に立ち入れる人数を1日420人に制限すると、年間約9千人が入山できなくなり、宿泊施設などに総額約2億3千万円の損失が生じると試算されました。
そのため、議員は下記のような反発をしました。
- 「420人の人数に裏付けはあるのか」
- 「登山者のピークを平準化させる具体的な取り組みはあるのか」
- 「枠を大手業者に牛耳られ、中小の宿泊業者やガイドに仕事が回ってこないのでは」
- 「縄文杉へのルートをすべてチェックできず実効性がない」
当然の結果だと思います。自然環境をまもるのは、とても大切なことです。しかし、自然環境は常に人間とかかわりあっています。自然環境側だけの意見では、とてもこのような条例を取り決めることはできないでしょう。町の人たちの収入が減ってしまうのは、どう考えてもマズいのです。
今後の課題
否決を受け日高十七郎(となお)町長は、下記のように話しているそうです。
「まだ精査が必要という趣旨と理解した。
観光業界への説明や再検討を重ね、9月までに条例案を再提出したい」
しかし、現在の「観光だより」の屋久島では、おそらく今後も住民からの反発がつづき、いっこうに条例をつくることはできないでしょう。
そうした間にも、屋久島の自然はじわりじわりとキズつけられていきます。本当にこのままでいいのでしょうか?
条例の策定よりも、登山道やトイレの整備をすべきだ
という意見もあります。しかし、これを実現するためには、莫大なお金が必要です。 屋久島町は、できるだけ早い段階で「環境と観光」を両立させる方法を考えなければなりません。
小笠原諸島、世界遺産への教訓
現在、屋久島はドロ沼の状態です。前回も指摘しましたが、世界自然遺産とは、けっして観光のためではないのです。
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小笠原諸島は、今後もっともっと注目されていくでしょう。観光客がコントロールできないくらいに増加してしまう前に、しっかりとした枠組みをつくる必要があります。
大切なのは目の前のことかもしれません。でも、そんな時代は一瞬の夢だったのではないでしょうか?
これからは、これまでに私たちの祖先がしてきてくれたように、未来を見すえた生き方をしていくべきではないでしょうか?