第1章 トカラ列島の概況
トカラ列島の位置や大きさなど
「トカラ列島」とは、鹿児島県の屋久島と奄美大島の間、
北緯29度8分・東経129度13分から、北緯29度59分30秒・
東経129度55分1秒の区間に南北162kmに連なり、12の島々で構成されている
「鹿児島県鹿児島郡十島村(としまむら)」のことをいう。
162kmという長さは東京−藤枝(静岡県)間に相当する距離で、
この行政区域の長さは日本で最長である。
また、村の総面積は101.35km2、総周囲は148.53km。
最高点は中之島御岳の979mである。
村全体の面積はおおよそ世田谷区の2倍弱の広さである。
現在、トカラ列島は行政区分上十島村に属しているため、
論文を書く際には「十島村」という名称を用いるべきかもしれないが、
本論文では「トカラ列島」と記したいと思う。
それは、「十島村」という呼称よりも「トカラ」という呼称の方が
はるかに長い歴史を持っており、
また、この名称の響きに十島村の持つ文化や環境が含まれているように思われ、
なにより島が列なってできている村であることを
強調することができるからである。
ただし、表現のために十島村という名称を
用いる場合もあることを予め断っておく。
トカラ列島にある島や交通手段
トカラ列島は12ある島のうち、
7島(北から口之島・中之島・平島・諏訪之瀬島・悪石島・小宝島・宝島)が
有人島で、
その他の5島(同、臥蛇島2・小臥蛇島・小島・上ノ根島・横当島)が
無人島である。
人口は全島合わせて620人
(2008年10月30日時点・十島村『国勢調査でみる人口・世帯数の推移』より)、
最も人口の多い中之島の人口は138人(同)で、
最も人口の少ない諏訪之瀬島はわずか49人(同)である。
村への交通手段は週2便の定期船のみで、
鹿児島港からの場合、最も近い口之島に行くのに6時間15分かかり、
最も遠い宝島までは13時間20分船に揺られなければならない。
ただし、週2便のうち1便は鹿児島から奄美大島までの区間を航海するため、
奄美大島から宝島に向かう場合に限り、
3時間という短時間で到着することもできる。
トカラ列島の大きな特徴
トカラ列島のもつ大きな特徴は、
その位置が温帯気候区と亜熱帯気候区の遷移帯にあり、
動物地理学上の旧北区と東洋区の境界にあること。
また、日本本土の文化である大和文化と、琉球文化、
更には東南アジアの文化の遷移帯でもあるということにある。
そのため、トカラ列島には独自の動植物が生息し、
独自の文化が育まれ、現代にも引き継がれている。
トカラ列島の持つ魅力は以上のような
• 隔離性=秘境という魅力
• 独自の自然=トカラ列島ならではの動植物
• 独自の文化
の3点に大まかに分類することができる。
そして、学術的にはこのトカラ列島での研究が非常に少ないことも
魅力の1つに含めることもできるだろう。
特に、今回私が着目した<農業生産>と<地域資源>の2点に
関する研究は近年行われていないにも関わらず、
トカラ列島の訪問を繰り返す都度、
研究の重要性と面白さが大いにあることに気づいた。
そこで、本論文ではトカラ列島で現在行われている農業の紹介と今後の展望、
そしてトカラ列島ならではの活用可能な地域資源を紹介していき、
未来のトカラ列島のあり方や産業の、私なりの意見を述べていきたいと思う。
足掛け2年 滞在42日間の調査
なお、この論文は2007年3月9日〜11日(宝島)、
3月17日〜18日(中之島)、8月9日〜16日(中之島)、
2008年3月5日〜23日(中之島)、
5月27日〜28日(口之島・中之島・平島・諏訪之瀬島・小宝島・悪石島・宝島)、
11月8日〜16日(中之島)の計42日間の現地滞在に基づくもので、
トカラ列島を包括的に紹介しながら、
具体的には中之島を中心とする調査結果と考察を述べたいと思う。
なお、本論文で使用されている写真は特に断りがない場合、
すべて筆者が現地で撮影したものである。