行き先は、風に聞いてます。

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A person standing in front of a sunset

人生で一番の星空

オーストラリアの砂漠のど真ん中。あたりに人工的な灯りは一切なかった。

沈んでいく太陽は、真っ赤な大地を照らし、だんだんと空と地平線の境がなくなっていく。

ぼくらはなんて遠くに来てしまったんだろう。

夜が更けるにつれ、頭上には星が輝き始めた。

探検部の時にもさまざまな場所でさまざまな星空を見てきた。

ぼくが大好きな新田次郎の小説「孤高の人」に、「暗闇の中に光が点在するのではなく、光の中に闇が点在するかのようだった」という、冬山の星空を描写した一節がある。

(手元に孤高の人がなかったのでうろ覚えだが…。)

確かに冬山の星空は美しかった。冬ではないが、沢登りに行った大血川の夜空の美しさは今でも忘れられない。トカラ列島で見た流星群も綺麗だった。

だが、今この砂漠で見上げている星空は、それまでに見たどの星空よりも美しかった。

寝転がっている場所が小高い丘になっているせいで、足先の下まで星空が続いているのだ。

それは、まるで自分の体が宇宙に浮いているかのようで、頭上の星から足先の星まで全てが明瞭に輝いていた。

あれから、また色んなところを旅して、カナダではオーロラを見たこともある。

だけど、この時の星空を超える星空にはいまだに出会えていない。

オーストラリアの砂漠で見た星は、人生で一番の星空だった。これからもこの時の星空を越えるものに出会えることはないのかもしれない。

自転車のパンクが運んだ、奇跡の夜だった。サトル、お前のせいだぞ。