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田舎に住んでいると季節の移ろいに敏感になってくる

澎湖(ポンフー)の季節は大きく2つに分けられる。風のない季節と風のある季節だ。毎年、2〜3月の元宵節(中華圏で旧正月から15日後の日に行われる灯籠祭り)の後から9〜10月の中秋節(十五夜の日)までの間は穏やかな南風の吹く季節で、それ以外は猛烈な季節風が北東から吹き荒ぶ季節になる。

風のある季節と風のない季節を、単純に夏と冬に置き換えてもいい。澎湖の夏は長く、4月から9月までの半年間は毎日25度を超える夏だ。しかし、周りが海だからか30度を超える日は意外と少ないので、気温だけでいうと近年の日本の夏よりは涼しい。ただ、繰り返しになるが、長い。

今年は季節風が吹き始めるのが早いようで、9月半ばにはもう北東からの風が吹くようになってきた。これから風がだんだん強くなっていき、どんよりとした曇り空が広がる季節がやってくる。

冬の間は観光客が減るので、観光業の仕事は減る。が、だからといって忙しくないわけではない。仕事が落ち着き過ごしやすい気温が続く季節は、様々なものを仕込むのにうってつけだからだ。

例えば、我が家で冬の間に必ず仕込まなければならないのは自家醸造のビールだ。日本では一定のアルコール度数を超えるお酒を作る事は法律で禁じられているが、台湾では1家庭あたり100リットルまでという量の制限はあるものの個人で消費する分にはお酒を作ることが認められている。

1瓶あたりの容量は333ミリリットルなので、年間300本のビールを直醸造するのは問題ないということだ。1年分のビールとしては我が家では十分な量である。

また、自家製の味噌を仕込むこともある。はっきり言って台湾の味噌はあまり美味しくない。ところが、手間をかけて自分で作れば驚くほどおいしい味噌を素人でも作ることができる。米麹など一部の材料は日本から輸入しなければならないこともあるが、年に一度のことなので帰国したタイミングで材料を持ち帰ってくるのがいつものやり方だ。

その他、次のシーズンに向けて勉強をしたり準備をしたりするにもちょうど良い。何しろ、一歩家の外に出れば台風並みの風が吹いているのだ。こういう時期はお篭りするのが一番である。

澎湖に引っ越してからというもの、自分で作れるものは自分で作り、それ以外は買うという生活スタイルが板についてきたような気がする。

それというのも、欲しいものがすぐに手に入らない不便さ故だ。結果的に、加工品はあまり買わなくなった。パンは小麦粉からホームベーカリーで作るし、ベーコンも肉屋で買ってきて自分で燻す。これなら食品の原料が分かるから安心だし、何より平凡な日々の生活のスパイスになる。

田舎の人が忙しい理由は、お金で手に入るものが少ないために、なんでも自分でやらなければならないからなのだというのがよく分かった。これからは3Dプリンターが一家に一台という時代がやってきて、ますますDIYするスタイルになっていくのだろう。

こうした暮らしをしていると変わってくるのが、お金の価値だ。都会ではお金と引き換えに買っていたものが手に入らなくなるので、田舎ではお金をあまり使わなくなる。家賃も安いし、そもそも散財できる場所がほぼないので出費も減る。

例えば、都会で1分ごとに刻まれたスケジュールをこなして月収20万円を稼いでも手元に5万円しか残らない生活と、時間の流れが緩やかな田舎で月収10万円だけど手元に同じ5万円が残る生活と、どっちがいいのだろうか?

もちろん、お金を使って物を買う楽しみもあるし、都会にしかない仕事もあるから、単純に手元に残るお金だけで豊さを計ることはできないし、そもそもそれは個人の好みの問題なのだが。

少なくともぼくの場合は、自分で作れるものは自分で作って、天気の良い日はシュノーケリングしたりドライブしたり風に吹かれたりするライフスタイルが好きだ。冬も元々お篭り族なのでそれほど苦にはならない。

これからゆっくりと冬がやってくる。今年はどんな味のビールを作ろうか。