台湾の離島「澎湖(ポンフー)」でのカジノ建設をめぐる住民投票まであと1週間! 澎湖の運命はどうなる?
10月15日に台湾の離島「澎湖(ポンフー/Penghu)」でカジノの建設の賛否を問う住民投票が行われる。
「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟しているほど風光明媚な澎湖。世界的に珍しい玄武岩の柱状節理や、石滬、菜宅などの文化遺産を抱える穏やかな島は今後、人間の手によってどのような運命をたどることになるのだろうか。
今回は住民投票まで1週間ということで、おそらく日本のメディアでは一切報道されていないであろう澎湖のカジノ建設のリアルをご紹介したいと思う。
なお、このブログの内容はぼくが2年前から今までに得たものをまとめたものとなっている。情報源は主に澎湖の住民への聞き取り、澎湖現地でのパンフレット、ネットでの情報だ。そのため、曖昧な部分や事実と異なる部分があるかもしれない。
本来であれば裏付けを取るべきところだが、こうした曖昧な部分が澎湖のリアルだと思う。一般市民は細かい法律のことはあまり理解しないまま、住民投票に行くのが実際のところだからだ。
ちなみにぼく自身は9月から澎湖に引っ越して現地で暮らしている。また、これまでにオーストラリアやカナダでカジノを楽しんだこともあるため、カジノの良い部分も十分理解しているつもりだ。カジノ自体を否定するものではない。
なお、個人的な立場としては澎湖でのカジノ建設には反対だ。以上のことを踏まえて読んでいただけると、澎湖でのカジノ建設をめぐる住民投票についてよく理解できると思う。
澎湖(ポンフー)でのカジノをめぐるこれまでの経緯
今回のカジノ建設をめぐる住民投票は澎湖で初めて行われるものではなく2度目だ。前回は反対派が多数だったため、カジノ建設はお蔵入りになった。
ではなぜまた、カジノに関わる住民投票が行われるのだろうか?
実は、台湾には住民の5パーセント以上の署名がある場合は住民投票を行えるという法律がある。また、一度行われた住民投票でも、ある3年が経てばもう一度行うことができる。
しかも台湾人は割と政治に対して積極的なので、こうした権利があれば堂々と行使する。実に民主的である。
そんなわけで、今回またカジノに関する住民投票が行われることになったというわけだ。
なぜ澎湖にカジノを作るのか?
澎湖はもともと住民の半数以上が漁業に携わる「漁師の島」だった。今でも漁業が盛んで、朝に魚市場に行くといかにも漁師の島だと実感できる。
そして1990年代ごろからは、その美しい風景を活かして観光業が発展してきた。
ところが澎湖は「風島」と呼ばれるほど風が強い島で、冬は東北から吹く猛烈な風にさらされる。そう、つまり風が吹く冬は完全に観光のオフシーズンなのだ。オフシーズンが長ければその分経済発展の足かせとなってしまう。
つまり、そんなオフシーズンでも人を呼び込むにはカジノがいいだろうということで、住民投票の話題が出たというわけである。
澎湖以外にも台湾にはカジノ候補地がある
実は、澎湖と同様にカジノ建設の議論が行われている場所が台湾の他の場所にもある。
同じく離島の「馬祖(Matsu)」と「金門(Kinmen)」だ。風の噂によるとこの両島は澎湖よりカジノ賛成派が多いそうなのだが、ある理由でカジノ建設そのものが難しいと言われてる。
その理由は台湾の抱える両岸問題だ。すなわち馬祖と金門は中国と近すぎるということである。
※両岸問題:中国と台湾の外交問題のこと。お互いに中国は1つしかないという認識のため、国際問題ではなく大陸と台湾島の問題という表現をする。
中国にも世界屈指のカジノを有するマカオがあるため、あまり中国と近すぎる場合は中国政府からの圧力がかかる恐れがあるのだ。
かといって台湾本島に建設するとなると、住民が多いため色々と難しい。
台湾のカジノ賛成派としては、もしカジノを建設するなら試しに離島でやってみてどうなるのか観察したいのが本音のようだ。
澎湖でのカジノ推進派の意見
さて、カジノ推進派は、なぜカジノを建設したいのだろうか?
それは自身の利益に直結しているからに他ならない。また、カジノを建設することで福利厚生が良くなることを主張してもいる。
例えば、年金が増えるとか、学費が安くなるとかそういう類のものだ。
だが、公然と宣伝しているそれらの福利厚生に充てる費用を計算してみると、とても実現できる金額ではない。
さらに、仕事が増えることで澎湖から出て行った子どもが帰ってくると主張しているが、実は澎湖には仕事がたくさんある。ただやりがいのある仕事が少ないのだ。
しかも台湾で働いている澎湖人は澎湖に仕事がないから行くというより、都会に憧れているといった方が正確だろう。
ならむしろ澎湖の美しい自然を守る方向で観光業を発展させ、やりがいのある仕事を増やす方が、ずっと戻り甲斐のある故郷になるはずだ。
カジノ建設をすると一気に懐が肥えるかもしれない。確かに税収が増えて澎湖の運営がもっと楽になるかもしれない。
だけど、そのために長期的な利益を失う危険性がある。目先の利益よりもっと長い視野で将来の世代のために行動するべきではなかろうか。
澎湖でのカジノ反対派の意見
こちらはシンプルで、カジノを作っても現地にはお金は落ちず、美しい自然を汚されたり、治安が悪くなることを不安視している。また、仮に税収が増えたとしても現地の負担も同様に増えることを示唆している。
そもそも澎湖という資源の限られた土地でカジノを作っても国際的な舞台では勝負にならない。
現在、東京では澎湖より前向きにカジノ建設の議論がなされていることをご存知だろうか。「え、そんな話聞いたことない」と思うかもしれないが、それもそうだろう。
日本ではカジノというと印象が悪いので「IR(アイアール/Investor Relations)」と呼ぶそうだ。だから都民はカジノ計画に気づいていない人が多いのではなかろうか。
例えば、現東京都知事の小池氏はカジノ建設に前向きだ。実際には前石原都知事が二期目の公約に掲げていたらしいので、だいぶ前からこの計画はあったということになる。
その割に話がほとんど進んでいないどころか、カジノ建設予定地と考えられていた土地はオリンピックの選手村になることになった。なので、小池都知事がカジノに賛成だろうがそう簡単に話は進まないだろう。
だが実際に東京にカジノができた場合はどうだろうか? 専門家や投資家によると東京のカジノは世界で3番目の規模になると予測している。確かに東京ならあり得る話である。
一方、澎湖はどうだろうか? もしカジノができたとしても、土地や水、食料に限りがあるため、呼び込める人の数は自然と限定される。
最悪のパターンは澎湖と東京にカジノができてしまうことだ。澎湖のカジノの運命は目に見えている。
澎湖でのカジノ建設をめぐる実際のところ
では仮に住民投票の結果、カジノ建設に賛成する人が多数派だった場合はどうなるのだろうか?
実は台湾も日本と同様、賭博は犯罪なのでカジノも法律的に作ることができない。すると、まずしなければならないのはカジノを合法にする手続きである。
ところが台湾の現政権である民進党はカジノに関して否定派だ。しかも澎湖の現県知事も民進党だ。任期はお互いまだ2〜3年ある。となるとカジノを合法にする段階で長い時間がかかるものと思われる。
仮にカジノ推進派が多数だったとしても、実際にカジノ建設にこぎつくまでは長い時間がかかるだろう。その間に反対派が何らかの運動を展開することも見込まれ、澎湖では賛成派と否定派に分かれて激しい攻防が続くかもしれない。
厄介なのは、カジノ推進派には直接的な利益が望めることだ。アジアの田舎である。堂々とワイロが渡されていても不思議ではない。噂でしか聞いたことがないのでそのつもりで読んでいただきたいが、区長クラスの選挙だと今でもワイロが横行しているらしい。まあ日本でも同じことだろうが…。
一方、賛成派には直接的な利益はない。カジノができずに澎湖の今のままの自然と治安が守られればそれは利益だが、やっぱりお金の力は怖い。お金に目のくらんだ人が本気を出すと大変な目にあう。
住民投票まで1週間となった今、少し前までは1つもなかったカジノ賛成派の幟(のぼり)が急に増えた。今では反対派の幟より賛成派の方が多いかもしれない。それまではカジノ反対派が少ないと思われる予算で細々と幟を立てていたのに、だ。
澎湖のカジノ建設をめぐる住民投票まであと少し。ぼくは外国人なので投票権がない。台湾人の妻も引っ越してきたばかりなので投票権がない。だから、ぼくらは指をくわえて見ているしかない。
しかし、澎湖の人々がもっと持続的で自然環境や伝統文化を維持したままの発展を選択してくれるように祈っている。
もちろん、ぼく個人としてはカジノがある澎湖は望まないが、それを決めるのは澎湖の人々だ。ただ住民投票の結果がどうなったとしても、澎湖の良いところを後世まで伝えられる島にいてほしいと思う。
でも澎湖にカジノできたらイヤだなあ…。